【刑事】医療観察法における付添人活動

 心神喪失者等医療観察法(医療観察法)に基づく手続は、司法と福祉両方の観点が求められ、各関係者の役割等を踏まえた連携が必要になります。

 地域処遇(通院処遇)を見据えた活動が重要となるため、地域における福祉制度・社会保障制度に関する知識も重要となります。
 司法・福祉両面から専門性の高い手続と思われ、知識・情報のアップデートが重要と思われます。これまでに接した文献を以下にまとめます(随時更新予定)。

医療観察法(付添人活動等)に関する文献

Q&A心神喪失者等医療観察法解説(第2版補訂版)
(日本弁護士連合会刑事法制委員会著)(三省堂、2020年)

 基本的知識が網羅的に記載されており、最初に接する文献と思われます。

ビギナーズ医療観察法
(季刊刑事弁護No.63(2010年)所収)

 付添人としての留意点がまとめられており、手続に関与する人々についての詳しい解説も掲載されています。

自由を奪われた精神障害者のための弁護士実務
(姜文江=辻川圭乃著)(現代人文社、2017年)

 医療観察法の他、精神保健福祉法等、テーマに沿って横断的・網羅的な記述があり、書式も充実しており実践的です。

医療観察法に関する論文・論考

大阪地方裁判所における「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」施行後の事件処理状況
(並木正男、西田眞基著)(判例タイムズNo.1261(2008年)所収)

 実際の審判の審理状況、事件類型等が分かります。

心神喪失者等医療観察法による審判手続の運用の実情と留意点
(稗田雅洋著)(植村立郎判事退官記念論文集第2巻(2011年)所収)

 裁判官の視点から、審判手続における留意点(精神障害に関する診断変更の可能性など)が記載されています。

医療観察法42条に基づく処遇選択について
(平出喜一著)(植村立郎判事退官記念論文集第2巻(2011年)所収)

 裁判官の視点から、医療観察手続における処遇(入院、通院等)を選択する際の留意点が記載されています。

抗告審からみた医療観察法に関する二、三の問題
(小倉正三著)(植村立郎判事退官記念論文集第2巻(2011年)所収)

 裁判官の視点から、医療観察手続における抗告手続の留意点が記載されています。

医療観察法の医療現場等に関する文献

(特集)医療観察法-改めて中身を問う
精神医療No.96(2019年)

 主に現場の立場から、医療観察法について批判的な論稿が掲載されています。現場の実情や本法の問題点等を知るうえで貴重な論稿と思います。以下のような論稿が掲載されています。
 ・座談会 医療観察法-改めて中身を問う
 ・医療観察法と精神保健福祉法の根本問題-刑事手続と治療提供を再考する
 ・医療観察法再考-刑務所敷地内「指定入院医療機関」設置計画に寄せて
 ・医療観察法をめぐる裁判所の判断
 ・医療観察法における「社会復帰」の意味について
 ・協力医活動から見た医療観察制度の問題
 ・医療観察法と人権をめぐる現場から

精神保健医療のゆくえ-制度とその周辺
(岡崎伸郎著)(日本評論社、2020年)

 精神医療の立場から医療観察制度について貴重な示唆が多数なされています。以下のような論考が掲載されています。
 ・地域処遇の課題は「医療観察法」最大の隘路として残る
 ・地域精神保健福祉における医療観察法の宿命的異質性
 ・医療観察法の解消と精神保健医療体制の再構築はワンセットである

指定入院医療機関の整備状況

指定入院医療機関の整備状況(厚生労働省ホームページ)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sinsin/iryokikan_seibi.html

※令和4年4月1日現在:850床 〔うち国関係:504床 都道府県関係346床〕
※令和3年4月1日当時:827床
※令和2年4月1日当時:833床

医療観察法に関する判例

最決平成19年7月25日・刑集61巻5号563頁

 医療観察法33条1項の申立てがあった場合に、医療の必要がある対象者について、対象行為を行うことなく社会に復帰できるようにする必要を認めながら、精神保健福祉法における措置入院等の医療で足りるとして同法42条1項3号の同法による医療を行わない旨の決定をすることは許されないと判断したものです。
 医療観察法と精神保健福祉法の関係について判示したものであり、両制度の関係を考察する上でも重要な判断と思われます。
 この決定により、①通院決定をしたうえで審判後一時的に精神保健福祉法による入院をしてもらい、その間に地域での支援体制を調整するという方法、②指定入院医療機関が遠隔地にある等の理由により医療観察法による入院決定を避けて精神保健福祉法による入院を選択する方法、③精神保健福祉法による措置入院や医療保護入院等の医療を行えば足りるとの理由で医療観察法の医療を行わない決定をする方法、等が採りえなくなりました。
 実務にも大きな影響を及ぼす判断であったと考えられます。

最決令和3年8月30日・刑集75巻8号1049頁
(アルコール依存症と医療観察法)

 アルコール依存症と医療観察法の関係について判示した決定です。
「医療観察法は、同法による医療の対象となる精神障害の種類について限定をしておらず、アルコール依存について、自発的意思に基づく治療が原則であるとする医学的見解があることを踏まえても、実際に、同法による医療においてアルコール依存に関する専門プログラムによる治療が行われていること等に鑑みれば、アルコール依存がそれ自体として一律に同法による医療の対象とならないと解するのは相当ではなく、同法による医療を受けさせる必要があるか否かは、同法37条に基づく鑑定及び当該対象者の生活環境等を踏まえ、事案ごとに個別具体的に判断されるべきである。」として、アルコール依存症に罹患している対象者について、医療観察法による入院決定をした原々決定を取り消した原決定に、同法42条1項、64条2項の解釈適用を誤った違法があるとしました。

弁護士 社会福祉士 宮腰英洋(宮城・仙台)